Ⓒランページ
アリスに子供ができたと知った時、僕は生まれて初めて喜びというものを知った。
そして、子供が生まれることもなく死んだことを知った時、僕は生まれて初めて悲しみというものを知った。
アリスは僕に土下座をしながら泣いて謝った。僕はもちろん、事故だったんだから仕方ないと慰めた。それでもアリスは土下座しながら泣いて謝る。
愛する人のこんな姿を見る苦しみが、キミにはわかるか!
胸が張り裂けそうだった。アリスにわからないように、シャワーを浴びながら泣いた日も何度もあった。でも僕は気をしっかりと持つことができた。アリスがすっかり精神的に参ってしまって、それを支えなければならないという使命感。それだけで僕は日々を必死に生きていた。
そんな日々が続いたある日の夕方、スーパーに食材を買いに行って、家に帰ると、アリスは手首を切った腕を、浴槽に突っ込んでいた。息はかろうじてあったけど、僕は救急車を呼ばなかった。間に合わずにアリスが死んでしまうと悟ったのだ。
そっとアリスの額に手をやり、まだ意識の残ったアリスを僕の脳内に移した。アリスはそこでも泣いて謝った。僕はアリスに「大丈夫だよ。こうしていればいつまでも一緒にいれる」と慰めた。
そして、復讐を誓った。アリスの意識に残った記憶を頼りに、アリスにぶつかったやつを特定し、それがキミだとわかると、僕は大阪を出ることを決意した。
キミが東京で、あの男と結婚するという未来を見たからだ。