私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
***

 ヒツジの祈りも虚しく、松本の予想どおり原尾は次の指示を仰いだタイミングで、須藤課長に口撃されたのは言うまでもなく――。

「原尾さっきは随分と楽しそうに、ヒツジと喋っていたな?」

「いつもと変わりないですけドラえもん……」

 原尾のくだらないオヤジギャグもなんのその、須藤課長は怪訝なまなざしを注いで警戒を怠らない。

「なにか、やましいことを隠そうとしてないか?」

「ええ加減にせぇな。須藤課長の手が止まると、僕らの仕事も進まんのやで!」

 俺のデスクの前で戸惑う原尾を尻目に、猿渡が間に入った。

「俺は手を止めてない。動かしながら、原尾に話しかけています」

「器用貧乏やな。原尾は定時で帰るんやから、さっさと仕事を渡したほうが賢明やん」

 猿渡の助言に、俺は渋々次の仕事を渡すことにした。こういうところで、自分の不器用さを改めて思い知る。

(原尾は既婚者で、奥さんをとても大事にしていることがわかっているのに、無駄に突っかかってしまうなんて、本当に俺はバカだ……)

「かわいいって言ったら、怒るでしょう株式会社?」

「は?」

 わけのわからない言葉が混じる原尾のセリフを聞いて、眉間に自然とシワが寄ってしまった。

「恋をしてる須藤課長、すごくかわいいなって思っただけでスイカ。以前は漂う雰囲気がチクチクしていたのに、今はほわんとして、柔らかい感ジュース」

「それはヒツジちゃんと両想いになったから、心の余裕が雰囲気になって表れたのかもしれませんね」

 原尾のセリフにフォローを入れた高藤。俺のことを見下すわけでもなく、恋愛の先輩として、感じたままを口にしたらしい。

「そんなんどうでもええやろ。今は仕事に余裕を作らなアカンて!」

「猿渡さん、めちゃくちゃ忙しそうですね。現在手をつけてる仕事が終わったら、半分だけ手伝いますよ」

「半分なんて言わんと、全部持っていってもええんやで?」

「残念でした。僕は残業1時間しかないので、全部持っていくのは無理です」

「おまえたち、山田を見習え。ひとことも喋ることなく、集中して仕事をこなしてるだろ。頼むからどうでもいいことをネタにして、お喋りしないでください」

 言いながら山田に視線を飛ばしたが、むっつり黙り込んだまま、パソコンの画面を食い入るように見つめる。どうやら、いつも以上に機嫌が悪いらしい。

(自分が集めたメンバーとはいえ、性格が個性的過ぎて扱いづらいのが、自分の性格同様に面倒くさい……)

 そんなことを考えつつ膨大な仕事を前に、ため息をつかずにはいられなかったのだった。
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