私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
「つべこべ言わずに行ってくれないと、俺の気が済まない。部下がこのままやられた状態で、いいわけないんだから!」
須藤課長の苛立った気持ちが、声になって出ていた。そこに至るまでの苦労を垣間見てきたし、そのせいで余計に心にくるものがあって、なんとかしてあげたくなってしまう。
だけど私は、なにをすればいいのかわからない。部署を出る度に護衛をつけてもらうという、足を引っ張るメンバーなのだから。
「ヒツジ、そんな顔をするな。君のおかげで、ミーティングルームでの休憩が、かなり楽になった」
私を慮る須藤課長の声に、沈んでいた気持ちと一緒に顔があがる。声の主は相変わらず首をもたげていたけれど、穏やかさを感じさせる口調に、かなり救われてしまった。
「須藤課長……」
「部署の掃除だって疎かだったのを綺麗にしてくれたし、ミーティングルームも埃っぽさがなくなったから、昼寝がしやすくなった。午後からの仕事の効率も、確実にあがってます」
上目遣いで一瞬私の顔を見、慌てて俯く姿すら、可愛く思えてしまう。
「コイツらの残業の時間を減らすために、まずは原尾から書類を受け取り、松本を引き連れて副社長室に行ってください。連絡をしておきます」
須藤課長は捲したてるように言い放つと、内線をかけるために受話器を手にする。
「ヒツジちゃん、これお願インテリア!」
何の気なしに須藤課長を見つめていたら、原尾さんに声をかけられたので、急ぎ足でデスクに向かった。
「副社長に、なにか言伝はありませんか?」
「ないない! 俺は須藤課長に頼まれた書類を、そのまま作っただけなんだヨーグルト。ツッコミどころなんてない原稿を見て仕事をしてる時点で、言伝なんてナッシング!」
「ヒツジ、ぼやぼやせずに、さっさと行くぞ!」
私の背中にかけられた松本さんの怒号に驚いて、肩を竦めながら原尾さんから書類を受け取る。振り返ると、松本さんが部署の扉を開けて出て行くところだった。
「すみません、行ってきます!」
急かされる形で経営戦略部をあとにしたけれど、須藤課長の役に立てる仕事ができるだけで、いつも以上に嬉しくなった。
「松本さん、護衛ありがとうございます」
「護衛ついでに、リクエストしていいか?」
隣に並んだ途端に、さきほどとは違う優しげな雰囲気で話しかけられた。
「リクエストですか?」
「三時のおやつ。外に出て、アイツらになにか買いに行かね?」
「いいですね、それ!」
部署の片隅にコーヒーメーカーがあるので、朝以外は自分のタイミングでコーヒーを飲んでいるメンバー。須藤課長に頼まれた仕事が山積みで、三時ごろにはきっと疲れ果てている頃合かもしれない。
「ちなみに俺がヒツジにキツい言葉を使ってるのは、須藤課長の口撃を避けるためだから誤解するなよ」
「須藤課長の口撃って、いったい――」
(もしかして、嫉妬心から須藤課長が口撃しているんじゃ……)
「少しでも仲良さそうに喋ると、あとからネチネチ口撃されるんだ。ヒツジに気があるんじゃないかって探られる」
「あ……それは大変そう」
「既婚者だけど、原尾もあとから口撃されると思う。というか、俺らが出て行ったタイミングでしてるかもな」
可笑しそうにカラカラ笑う松本さんには悪いけど、原尾さんの無事を祈らずにはいられなかった。
須藤課長の苛立った気持ちが、声になって出ていた。そこに至るまでの苦労を垣間見てきたし、そのせいで余計に心にくるものがあって、なんとかしてあげたくなってしまう。
だけど私は、なにをすればいいのかわからない。部署を出る度に護衛をつけてもらうという、足を引っ張るメンバーなのだから。
「ヒツジ、そんな顔をするな。君のおかげで、ミーティングルームでの休憩が、かなり楽になった」
私を慮る須藤課長の声に、沈んでいた気持ちと一緒に顔があがる。声の主は相変わらず首をもたげていたけれど、穏やかさを感じさせる口調に、かなり救われてしまった。
「須藤課長……」
「部署の掃除だって疎かだったのを綺麗にしてくれたし、ミーティングルームも埃っぽさがなくなったから、昼寝がしやすくなった。午後からの仕事の効率も、確実にあがってます」
上目遣いで一瞬私の顔を見、慌てて俯く姿すら、可愛く思えてしまう。
「コイツらの残業の時間を減らすために、まずは原尾から書類を受け取り、松本を引き連れて副社長室に行ってください。連絡をしておきます」
須藤課長は捲したてるように言い放つと、内線をかけるために受話器を手にする。
「ヒツジちゃん、これお願インテリア!」
何の気なしに須藤課長を見つめていたら、原尾さんに声をかけられたので、急ぎ足でデスクに向かった。
「副社長に、なにか言伝はありませんか?」
「ないない! 俺は須藤課長に頼まれた書類を、そのまま作っただけなんだヨーグルト。ツッコミどころなんてない原稿を見て仕事をしてる時点で、言伝なんてナッシング!」
「ヒツジ、ぼやぼやせずに、さっさと行くぞ!」
私の背中にかけられた松本さんの怒号に驚いて、肩を竦めながら原尾さんから書類を受け取る。振り返ると、松本さんが部署の扉を開けて出て行くところだった。
「すみません、行ってきます!」
急かされる形で経営戦略部をあとにしたけれど、須藤課長の役に立てる仕事ができるだけで、いつも以上に嬉しくなった。
「松本さん、護衛ありがとうございます」
「護衛ついでに、リクエストしていいか?」
隣に並んだ途端に、さきほどとは違う優しげな雰囲気で話しかけられた。
「リクエストですか?」
「三時のおやつ。外に出て、アイツらになにか買いに行かね?」
「いいですね、それ!」
部署の片隅にコーヒーメーカーがあるので、朝以外は自分のタイミングでコーヒーを飲んでいるメンバー。須藤課長に頼まれた仕事が山積みで、三時ごろにはきっと疲れ果てている頃合かもしれない。
「ちなみに俺がヒツジにキツい言葉を使ってるのは、須藤課長の口撃を避けるためだから誤解するなよ」
「須藤課長の口撃って、いったい――」
(もしかして、嫉妬心から須藤課長が口撃しているんじゃ……)
「少しでも仲良さそうに喋ると、あとからネチネチ口撃されるんだ。ヒツジに気があるんじゃないかって探られる」
「あ……それは大変そう」
「既婚者だけど、原尾もあとから口撃されると思う。というか、俺らが出て行ったタイミングでしてるかもな」
可笑しそうにカラカラ笑う松本さんには悪いけど、原尾さんの無事を祈らずにはいられなかった。