私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
 だけど俺は過去に、仲を取り持つと言った友人に手酷く裏切られたことがある。そのせいで親友を作れなくなった。

「悪いが俺は、おまえたちのことが信用できない。その……学生時代に友達に好きなコの相談をしていて、とられたことがあるんだ。調べてる間に、好きになったなんて言われて」

「あ~なるほど。それでこないに性格が歪んでしもうたのやね。ご愁傷さま。だけど僕がヒツジちゃんを好きになることはないで。須藤課長を裏切ったら、ここで仕事ができんくなるし。それはほかのヤツらも一緒や」

 肩を組んでいた腕を外し、その手で背中を思いきり叩かれた。あまりの痛さに顔を歪ませて、黙ったまま隣を睨みつけたのに、猿渡はへらっとした態度を崩さない。

 糠に釘だと悟り、目の前に視線を逸らすと、原尾が左手をあげる。

「オヤジギャグと下ネタしか能のない俺をここに呼んでくれた須藤課長に、恩を返したいと思っているんです。だから全力で恋のサポートをさせてください!」

 珍しくギャグを封印して喋る原尾に、俺だけじゃなく、ほかのヤツらも驚いて絶句した。

「ということで新入社員歓迎会の出し物を使って、須藤課長とヒツジの距離をなんとかしようと計画していたんですけど、ノってくれますよね?」

 言いながら松本が指さしたパソコンのモニターには、現在進行形で仲良さそうに話す愛衣さんと山田の姿が映し出されていた。目を合わせて、楽しそうに山田の話を聞き入るのを目の当たりにして、胸がしくしく痛む。

(俺と喋っていても、こんな笑顔を引き出すことはできなかったのに……)

「須藤課長、迷ってる間に山田に差をつけられちゃいまっせ」

「……どうしておまえたちは、俺に手を貸そうとする。今までしてきた態度なんて、恨まれることのほうが多い気がするのに」

 自身がおこなってきた行為を振り返ったときに、こんな俺に手を貸す奴なんていないと思ったからこそ、発した言葉だった。

「傷つけられる前に、先に傷つけて距離をとらせる。自分が傷つかないようにするために、してきたことなんでしょう?」

 胸の前で腕を組んだ高藤が、すべてわかってるという表情で告げると「不器用さんだからなぁ」「ほんとそれ」「甘えられる存在として我慢してました」などなど、ほかのメンバーから口々に文句がなされる。

「俺は……」

 言いかけて、唇を引き結んだ。こみあげるなにかがいっぱいすぎて、なにから喋ったらいいのかわからない。
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