私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
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 矢幅電機の元気な店員さんオススメのコーヒーメーカーを買い、どこにも寄り道せずにまっすぐ会社に戻った。

「須藤課長の財布の中に、矢幅電機のポイントカードがあったので、ポイントつけて買い物しました」

 神妙な顔で事後報告したら、須藤課長はデスクに頬杖をつきながら、嬉しそうな表情で私を見上げる。

「ポイントカードがあること、よく気がついたな」

「私も持っていたので、もしかしたらと思い探してみました」

「そういう気遣いは仕事に必須だ。帰って早々だが、さっそく新品のコーヒーメーカーで、とびきり美味いコーヒーを淹れてくれ」

 朝の激怒とは180度違う対応に、いろんな意味でドキドキしながら返事をして、給湯室に移動する。

「山田も荷物持ち御苦労だったな。ヒツジにちゃんと説明できたみたいでなによりだ。生贄らしい顔つきになってる」

「彼女、なにも知らない状態で、ここに異動したみたいです」

 部署から出る間際にかわされた、須藤課長と山田さんの会話に、思わずイラッとする。

(生贄らしい顔つきって、どんなのだよ? 自分で自分の顔が見ることができないせいで、余計に不安になる)

 ガックリと肩を落とし、意気消沈したままコーヒーを淹れたせいか、思いのほか苦くなってしまい、やり直ししたことはナイショだったりする。

「とびきり美味しいコーヒーです」

 心の中でたぶんという言葉を付け加えながら、須藤課長のデスクにコーヒーを置いた。そのとき、ふと目に留まったスマホの画面に思わず。

「懐かしい……」

 という言葉が、口を突いて出てしまった。

「ヒツジ、おまえ『わんにゃん共和国』を知ってるのか?」

 おおげさなくらいに体をビクつかせた須藤課長が、私の顔をまじまじと見つめて問いかける。その目の怖いことこの上ない。

「育成ゲームにハマっていたときに、ちょっとの間だけプレイしたことがあります」

「ちなみにおまえは、犬派と猫派のどっちだ?」

「犬派です。実家で犬を飼っていたので」

「…………」

 答えた途端に、須藤課長の眉間のシワが深く刻まれた。どうやら、しくじったらしい。

 誰だって犬猫の好き嫌いはあるだろうし、好みはなかなか一致しないものである。まるで、きのこたけのこ戦争のよう……。

「犬はワンワン、猫はニャンニャン、俺の股間はギーンギン!」

 背後から聞こえてきた笑えない下ネタに振り返ると、窓際のデスクのジェントルマンなイケおじが手を振って、私にアピールした。

「ヒツジちゃん、はじめまして! この部署で一番の年配原尾でーす。よろちくび!」

(この挨拶に、私はなんて返事をしたらいいんだろ。偉い人、誰か教えて……)
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