私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
「うまくいくといいですね。応援してます」

 そう言ったのに心のどこかで、寂しさみたいなものを感じてしまう自分がいることに驚いた。

(須藤課長を応援したいっていう気持ちはちゃんとあるのに、寂しいなんて思うこと自体ダメダメ!)

 負の感情を断ち切らなければと、須藤課長のスマホの中にいるみーたんを猫じゃらしでかまい倒した。

「ヒツジに応援された時点で、うまくいかない気がする」

 愚痴のようなつぶやきが耳に入ってしまったため、動かしていた手が止まる。しかも職場での呼び名だったせいで、反応せずにはいられない。

「充明くん、家に帰るまでがデートなんですよ。ヒツジ呼びしないでください」

「応援しますって言われた時点で、現実を突きつけられた俺の気持ちを悟れ」

「現実を突きつけたのは、須藤課長が先じゃないですか!」

「好きな相手にまったく意識されない、俺の気持ちを想像してみろ。泣きたくなるのを、必死にこらえてるんだぞ」

 唇をとがらせて言われても、私にはどうすることもできない。スマホのむこう側でみーたんが短い手を伸ばして、猫じゃらしで遊ぼうとしているのに、指がまったく動こうとしなかった。

「作戦変更だ。ここまで鈍いとは思わなかった。考えた言葉もボカし気味になってるものは、ストレートにしなければ」

「あの……」

「わんにゃん共和国の隣に、写真フォルダがあるだろ。それを開いてみてくれ」

 遊んでほしそうな顔したみーたんをちょっとだけ撫でてから、一旦アプリを終了して、写真フォルダをタップした。そこにはたった一枚だけ、風景写真があったのだけど。

「これ、経営戦略部の窓際から、外を写したものですか?」

「ああ。人が映ってるだろ」

「はい、ふたりほど」

「拡大してみろ」

 どこか苛立ちを含んだ口調にげんなりしながら、言われたとおりに拡大してみる。

「これって、山田さんと私?」

「本当は写したくなかった。でも自然と手が動いてしまったんだ。滅多に見られない笑顔だったから」

「…………」

「山田じゃなく、俺を見て笑ってほしかった。そう思いながら、あのときシャッターを切ったんだ。だけど今日はたくさん笑ってる顔を見ることができて、すごくすごく嬉しかった」

 スマホに触れる指が、微かに震えた。拡大縮小される私の顔を見てるだけで、胸が高鳴っていく。そのせいで隣を見ることはおろか、どんな態度をしていいのかわからなくて、だんまりを決め込むしかなかった。

(須藤課長の好きな人って、私だったの!? なんで私? 好かれる理由がさっぱり不明。二年前からって言ってたけど、接点なんてまったくなかったし、これからどう接していけばいいのか、本当にわからないよ!)

「ぷっ、おもしろい顔してる」

 さっきまで不機嫌だったくせに、ゲラゲラ笑いだすなんて、私のことをからかったのかな。
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