私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
「わかっとらんねぇ、須藤課長の頭の良さは会社で一等なんやで。敵に回した時点で、容赦なく潰されるわ。油断しとると隙を突いてうまいこと論破されるし、口で勝った社員を誰も見たことがない」

 体を震わせるという猿渡さんのわざとらしい演技に、ほかの同僚も黙って首を縦に振る。

「朝からあの激怒を見てわかったと思うけど、須藤課長には逆らわないほうがいいよ。いつまでもしつこく、文句をネチネチ言うからね」

 苦笑いを浮かべた山田さんが、私にわかりやすく教えてから、自分のデスクで仕事をはじめると、ほかの人もそれぞれ持ち場につき、パソコンの画面とにらめっこしだした。

「あのぅ、私はなにをすればいいのでしょうか?」

 みんなに向かって訊ねると、壊れたバインダーをバサバサしていた原尾さんが動きを止めてから、ボソッと呟いた。

「とりあえず須藤課長の機嫌をとるのに、掃除をそーじきでそーそーにやればいいと思うけど、それじゃあ普通すぎるんだよなぁ。ほかになんかナイジェリア?」

「手っ取り早く須藤課長の機嫌をとるなら、デスクにあるスマホでゲームをしたらいいんじゃないか。それとも僕の膝の上に跨って、仕事を眺めていてもいいけどね」

 提案されたことはどれもやりたくないことばかりで、どうにも行動に移すことができない。

「ここの掃除はわかるんですけど、スマホゲームや誰かの仕事を眺めるだけなんて、ちょっと……」

「でもなにもしていなかったら、間違いなく須藤課長にどやされるぞ。ちなみにスマホのパスコードは、0707でみーたんの誕生日だ」

 松本さんのひとことにより、自動的にスマホゲームをすることになってしまった。

「……みーたんって、誰なんでしょうか?」

「とりあえずスマホを手に取って、わんにゃん共和国を起動したらわかる」

「あ、はい」

 仕方なく須藤課長のデスクから、スマホを拝借した。

「こっちおいで! ヒツジちゃんの席は僕の隣で、山田くんのお向かいさん。ここ使ってな」

 指摘した場所の椅子を叩きながら猿渡さんが招いてくれたので、小さなお辞儀をしてから腰かける。恐縮しつつ須藤課長のスマホのパスコードを入力し、見覚えのあるゲームを開いた。

 シュールな絵面を目にして、過去の自分に問いかける。

(どうしてこんな育成ゲームをしようと思ったんだろ。犬猫どっちもかわいい要素がどこにもないし、楽しめるところだってなかったはずなのに)
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