【女の事件】続黒煙のレクイエム
第3話
10月20日頃のことであった。

きよひこがアタシに対してさらにきつい暴力をふるうようになって以降、家庭内の人間関係がおかしくなっていた。

かつひこの長男のかつのりは、大船渡市内で自転車を走行中に歩行者の男性と接触しそうになった事故を起こしてしまった。

歩行者の男性にケガはなかった。

かつのりは、自転車を運転中にスマホのオンラインゲームに夢中になっていた。

かつのりは、男性に対してすみませんでしたと言ってあやったあと、その場から走り去って行った。

ところが、事故の現場を近辺のガソリンスタンドに勤務している従業員さんがスマホのカメラで撮影をしていた。

自転車の後ろに貼られていた中学校のステッカーの番号が写っている写メと一緒に警察署に送信されていたけん、中学校にかつのりが起こした自転車事故のことが伝わってしまった。

同じ頃、かつゆきはクラスの子供たちと一緒にみずたまりに石を投げて遊んでいた。

この時、クラスの子のこめかみに石が直撃してしまった。

クラスの子は、その場に座り込んで『痛いよ…痛いよ…』と言うて苦しんでいた。

ケガは大事には至らなかったが、かつゆきはまる2日に渡ってクラスの子にケガを負わせたことを家族に伝えなかった。

事件から2日後に、アタシはかつゆきを友人の家へつれて行って、あやまるように言うた。

けれど、かつゆきがあやまろうとせえへんかったけん、アタシは『あやまりなさいと言っているのに言うことが聞こえないのか!?』と怒鳴りつけてあやまらせた。

同じ頃、かつのりは授業中に学年主任の先生から自転車事故のことを注意されたことに腹をたてていた。

かつのりは、授業中に学年主任の先生が立っている教壇にワーッとなって殴りかかって行った後、教室に置かれている花瓶で学年主任の先生の頭をシツヨウに殴って、殺してしまった。

かつのりが起こした殺人事件は、学校は児童相談所へ知らた後に内部だけで解決をして行くことにしたので、ケーサツには知らせなかった。

かつのりが授業中に学年主任の先生を殺したこととかつゆきがクラスの子に石をぶつけてしまったことをあやまってへんことを聞いたかつひこは、会社を早退けして急きょ帰宅した。

かつひこは、帰宅するなりにふたりの子供の前でにぎりこぶしをふりあげてイカクしていた。

そんな時であった。

宇宙開発局の制服姿のさよこが、大きめのボストンバックを持って帰宅をした。

「ただいま…かつのり、かつゆき…おかーさんね…宇宙開発局の役職をいただいたわよ…おかーさんね…えらくなったわよ。」

さよこはにこやかな顔で宇宙開発局の役職を与えられたことを伝えていた。

アタシは、さよこが言うた言葉にキレていたので、さよこに殴りかかって行った。

「あんた、なに考えてものいよんか!!あんたね!!自分のダンナがこぶしを作って、子供たちを殴ろうとしていて危険な状態になっているのに、のんきにしていられるわ!!」

さよこは、一体何があったのかと思ってかつひこの元にやって来た。

かつひこは、ものすごい血相でさよこに怒鳴りつけていた。

「さよこ…今の今までどこへ行っていたのだ!?」
「えっ…10日前に宇宙ステーションから帰還したばかりよ。」
「さよこ!!オドレは家庭よりも宇宙飛行士の仕事の方が大事なのか!?」
「あなた!!アタシは10日前に宇宙ステーションから帰還して、あとのことでアタフタとしていてしんどかったのよ!!やっと休暇が取れて帰ってきたのに、お帰りなさいも言えないのよ!?」
「さよこ!!オドレはテイシュにたてつく気か!?宇宙開発局の役職を与えられたから偉くなっただと!?セメントにまみれて働いているオレのことをきたない男だと言うてバカにしているのか!?」
「バカにしていないわよ!!」
「だまれ!!」

(ガツーン!!ガツーン!!ガツーン!!)

かつひこは、さよこの顔をグーで力を込めて殴ってしまった。

「あなた!!どうして殴るのよ!?」
「だまれ!!宇宙飛行士の仕事にうつつを抜かして家庭をないがしろニしやがって!!宇宙飛行士の仕事の方が大事なら出て行け!!子供を置いて出て行け!!オドレが家庭をないがしろにしたけん、子供が殺人事件や傷害事件を起こしたんや!!子供は特別支援学校に送るから、覚悟しておけ!!」
「かつひこさん!!やめてよ!!」
「こずえさんは口出しをするな!!これはさよこと私の家族間の問題だ!!オラ!!さよこ!!かつのり!!かつゆき!!オドレらキライだからぶっ殺してやる!!」

怒り狂ってしまったかつひこは、妻子に対して強烈な暴行を加えていた。

アタシと義父は、タイショできんかったけん、かつひこの暴力に屈してしまった。

その上に、アタシはきよひこからめいこと入籍をするから婚姻届けの空欄になっている保証人の欄にサインをしろと迫られた。

きよひこは、アタシにめいこが妊娠5ヶ月であることを突き放すような声で告げたので、アタシは心がズタズタに傷ついた。

「きよひこさん!!あんた何考えとんかしら!!よそさまの家の娘さんを傷つけたと聞いたけん、アタシは怒り心頭になっているのよ!!」
「だから…オレはめいこと再婚したいから離婚してくれと言うているのだよ…こずえはオレのことがキライなんだろ…いいじゃねえかよぉ…」
「いいわけないわよ!!あんたは勝手過ぎるわよ!!殺すわよ!!今から殺すから覚悟しておきなさい!!」

すると、となりにいた義父が『やめてくれ…もうワシも対処できない…』と弱々しい声で言うてアタシを止めた。

義父はアタシに『こずえさんときよひこを無理に結ばせたワシが全部悪いのだ…』と弱々しい声で言うたけん、アタシはきよひことめいこの婚姻届けの保証人の欄に泣く泣く署名ナツインした。

きよひこは、アタシが保証人の欄に署名サインをしたのを『ありがとーね…』とヘラヘラした声で言うた。

めいこはニヤニヤとした表情でアタシに『あんたシキュウキンシュで赤ちゃん産めないからだだったのね…』と言うた。

ふたりにブジョクされたアタシは、ひどく傷ついてしまった。

アタシは、結婚生活を続けて行くことができなくなったけん、家出をすることにした。

アタシは、着替えとメイク道具がぎっしりと詰まっているボストンバックとさいふとスマホと貴重品が入っている赤茶色のバッグを持って、三陸鉄道の三陸駅から釜石方面行きの列車に乗って、再び放浪の旅に出た。

きよひこの浮気相手の女性から赤ちゃんが産めないことを小バカにされたけん、アタシの怒りは百万倍にふくれあがっていた。

アタシは、きよひこの家への遺恨(うらみ)を募らせて生きて行くことより他はなかった。
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