【完】終わりのない明日を君の隣で見ていたい
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放課後、一緒にカフェに行こうとサラちゃんたちに誘われた。
学校帰りに友達と遊びに行くなんて夢に見ていた憧れの高校生活そのものだったし、とてもありがたいお誘いだったけれど、今日中に記入して職員室に提出しなければいけない書類があり、泣く泣く断った。
友達の誘いなんて断ったら縁を切られてしまうのではないかと本当は怖かったけど、みんなは「また今度行こうね」と声をかけてくれた。みんなの優しさにはいくら感謝してもしきれない。
みんなが帰り、残ったわたしは机の中から出した書類の記入欄に文字を埋めていく。
間違えないよう集中して何枚もの書類を書き終えた頃には、時刻は17時を回り、さっきまであんなにいたはずのクラスメイトはすっかり姿を消していた。
ひとりになると、ようやく肩の力が抜けて席に座ったまま大きく伸びをする。
あれよあれよという間にこんなことになっているけれど、改めて考えてみれば、信じられないことが起きている。
死んでしまえばそこで終わり。生まれ変わることになるなんて考えもなかった。
……だけど、深く考えたところでどうにかなるわけではない。とにかく今は、生まれ変わったこの人生、頑張るしかない。
伸びをした姿勢のまま、ぐいーんと背もたれにもたれて上体を後ろに倒した時。ふと、校舎の影となる向かいの旧校舎の屋上に、人影を見つけた。
……あれは、先生だ。
先生と話したい……。先生に、少しでも近づきたい……。
そんな衝動が、心の中で大きく膨らむ。
転校初日があまりにもうまくいきすぎて、熱に浮かされているせいかもしれない。でも、まだまだ大人になった先生のことは知らないことばかりだから。どんなふうに笑うのか、どんな顔で空を見上げるのか、彼が経た10年をもっと知りたい。
自分から話しかけに行くなんて、梅子にはなかったはずの勇気が、桃になった今では漲ってくる。
桃になった自分でなら、彼の目をまっすぐに見て話すことができそうな気がして。
気づけばわたしは椅子から立ちあがり、木目の床を蹴っていた。