【完】終わりのない明日を君の隣で見ていたい
それは写真だった。写るのは、控えめに笑う梅子とカメラを前にしても無表情の綾木くん。
この写真を撮った時のことはよく覚えている。付き合いたての頃、学校から帰る途中に勇気を出して写真を撮ろうとわたしが頼み、嫌がる綾木くんと撮ってもらったのだ。
わたしの机に飾っていたのだけれど、ここにあるということはわたしが死んだ後で引き取ってくれたのだろうか。
「綾木くん、写真が嫌いだったっけ……」
けれど、わたしが撮ろうと頼み込むと、渋々ながらもいつも一緒に写ってくれた。
その他にも、引き出しの中には懐かしいものがたくさん入っていた。誕生日にあげたピアス、ふたりで交換して着けていた制服の第二ボタン。そしてわたしが作った不格好なお守り。
まだ持っていてくれたなんて。全部がひっそりと、けれど大切にしまわれていた。
「ふ、うう……」
気づけば嗚咽と共に涙がこぼれ落ちていた。ぽろぽろとこぼれるしずくが手の中のお守りに降り注ぐ。
わたしにとっては数週間前くらいの記憶が、先生にとってはもう10年も前のことなのだ。
この引き出しを開ける時、彼はどんな思いなのだろう。
こんなに愛されていることにもっと早く気づけばよかった。だけど綾木くんの心の傷を知らなかったわたしは、愛されている自信がなく、臆病になって彼の本心に触れようとすることも慮ることもしなかった。
胸に湧くのは際限のない後悔と愛しさばかり。
先生が捨てることのなかった思い出たちを、慈しむようにそっと撫でていると。