【完】終わりのない明日を君の隣で見ていたい
「――呼んだ?」
背後から聞こえてきた声に、わたしは鼻をすすりながら振り返った。
そこには天使が立っていた。声に出して呼んでいないのに、呼んだことがわかるなんて、やっぱり天使はすごい。
わたしは涙を拭いながら頷く。
「呼んだ。わたしを、元いた世界に……永藤梅子に戻して」
涙声の狭間に、覚悟という芯を持った声を放つ。しんとした空間で、わたしの声はとても響いて聞こえた。
心の声を読めるくせにわたしの要求は想定していなかったのか、天使が信じられないというように目を見張る。
「は?」
「わたしが桃として目を覚ました時、天使は〝あんたが死んだ方の世界〟って言ったよね。っていうことは梅子が死ななかった世界もあるんでしょう?」
ずっと気になっていた。あんな言い方をしたってことはきっと、死ななかった世界があるということだと。
でもその世界に思いを馳せる勇気はなかった。だって、あまりにこの世界が心地よかったから。梅子が死んだことに、なんの未練もなかったから。……でも。