【完】終わりのない明日を君の隣で見ていたい

 慌てて借り物競走がまだ続くグラウンドを駆け抜け、校舎に向かって駆ける。
 そして足を踏み入れた人の気配がない校舎の中は、ひんやりとしていて薄暗かった。グラウンドから聞こえてくる賑わいや、アナウンスの声は、まるで違う世界から聞こえてくるようだ。

 静かな廊下を駆けながら、リノリウムの床を蹴るその足取りは軽かった。皇くんの真意は分からないけれど、さっきまでボコボコになっていたメンタルが、皇くんのおかげで復活した気がする。

 そして2階にあがり、廊下の一番奥にある教室に辿り着き、なにげなく室内に足を踏み入れた時。わたしは思わずその姿勢のまま固まった。

 突き当たりの窓際に、グラウンドを見下ろす後ろ姿を見つけたからだ。
 後ろ姿だけで、その人がだれか分かってしまう。すごく好きな人だから。

 わたしの気配を感じたのか、その人物がこちらを振り返る。

「森下」

 いつもなら一瞬でも会いたくてたまらないのに、今はなんとなく鉢合わせたくなかった。告白をしてからまともに顔を合わせるのは今日が初めて。盛大にフラれたあとで、どんな顔をしたらいいかわからない。

「ちょっと衣装を忘れちゃって……」

 気まずくて、目を伏しがちにそそくさと自分の席へ向かう。けれど窓際の自分の席に行くには、自ずと先生に近付いてしまう。

 先生がこの気まずさに気づいているのか否か分からなくて、机を探りながら不自然ではないほどに話を振る。

「先生はここでなにを?」
「教師陣の競技種目に誘われて、ここに避難してた」
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