猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~
そうこうするうちに時間は経ち、七月も後半。志信さんたちがやってきて10日が経つ日だった。

「幾ちゃん、僕明日から夏休み」

夕食に離れにやってきた信士くんが懐っこく寄ってきて報告してくれる。
もうそんな時期なんだ。夏本番の到来だ。

「通知表、どうだった?」
「全然駄目よ」

志信さんが代わりに答え、信士くんが肩を落とす。私は慌てて彼の背をぽんぽんと軽くたたいた。

「大丈夫。幾ちゃんも全然駄目ばっかりだったよ。算数が苦手でさ」

自虐の苦笑いに、信士くんが少しだけ口元をあげる。

「幾子さん、この子、基本夏休みは午前中塾ですから」
「はい、わかりました。午後は少し遊んでも大丈夫ですか?」
「一時間半は自習させてちょうだい。それが終わったらいいわ」

書斎から出てくる三実さんが不満げな顔で口を挟んだ。

「幾子は保育士じゃないぞ」
「いいんです、三実さん。私が信士くんと仲良くしたいだけですから」
ここで信士くんの立場を守ってやらなければ可哀想だ。
三実さんに断ってから、信士くんの顔を覗き込む。

「信士くん、ビニールプール大きなの買おうか。離れのお庭に置いてさ。水遊びできるよ」
「水鉄砲、ある?」
「それも買うよ。背中にタンク背負うやつ」
盛り上がる私と信士くんに志信さんが言う。
「信士、学校の水泳でまだ顔もつけられないのよ。幾子さん、ちょうどいいから見てやって」
「はい、わかりました。信士くん、特訓だぞ~」
夕食中、なんとなく三実さんが不機嫌なのは感じていた。私が志信さんと信士くんの肩を持ったせいだろうか。
でも、三実さんだって、毎日志信さんと喧嘩しながら状況はまったく変わらないままじゃない。私は毎日毎日、ふたりの小さい頃からの絆を見せつけられているようで……。

何を考えているんだろう。三実さんは私の夫だ。志信さんの夫じゃない。この先もそうはならない。
私が苛々もやもやする理由はない。
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