極上パイロットが愛妻にご所望です
 その日はハンナさんの言葉がぐるぐる脳裏を巡り、寝不足もたたって、仕事が終わった頃には疲れきっていた。

 早く帰って寝なきゃ……。

「水樹さん、顔色悪いですよ? 大丈夫ですか? 僕、送っていきますよ」

 その大丈夫には、ハンナさんの件も含まれている気がする。聞きたいけど聞けない。そんな雰囲気だ。

「ひとりで帰れるから気にしないで。ありがとう。お先に失礼するわね。お疲れさま」

 更衣室に向かう隣で歩く住田くんに断り、ドアを開けた。

「はい。お疲れさまでした」

 住田くんがペコッと頭を下げるのを見てから、私は更衣室へ、しっかりと力が入らない足でのろのろと入った。

 私服に着替え終わり、スマホをバッグから取り出す。毎回のメッセージのチェックが癖になってしまっている。

 朝陽からメッセージが入っていた。

【お疲れ。駐車場にいる。早く砂羽を抱きしめたい】

 朝陽……。
 いつも通りの彼に、久美やハンナさんの話は忘れたほうがいいの?

 考えを巡らしながら、朝陽へ【これから行くね】とメッセージを打った。

 疲れきってひどい顔をしていても、彼に会わずにはいられなかった。

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