極上パイロットが愛妻にご所望です
 対面に腰を下ろした朝陽は白ワインのコルクを手際よく抜き、グラスに注ぐ。

「美味しそう。朝陽が作ってくれたナポリタンが食べられるなんて嬉しい」

「味はどうだろうな。これしか作れないから、意外と自信はあるけど」

 ナポリタンが小さい頃から好きで、留学してからもこれだけはよく作っていたと、以前聞いていた。

 白ワインをひと口飲み、ウインナーにニンジン、ナス、玉ねぎと具だくさんのナポリタンにフォークをクルクル巻きつける。

 そんな私を朝陽は白ワインを飲みながら見ている。

 フォークに巻きつけたナポリタンを頬張った私は、美味しさに目を丸くする。

「朝陽、美味しいっ!」

 もごもごと咀嚼を繰り返しながらだけど、早く『美味しい』と言いたかった。

 朝陽は嬉しそうに目尻を下げる。

「よかった。たくさん食べろよ」

 私の賛辞にホッとした様子で、朝陽もナポリタンを食べ始めた。

「で、どうして寝不足に?」

「えっ……」

 答えに困ってしまい、視線を泳がせる。

「砂羽?」

「調整がうまくいかなかっただけ。今日みたいに帰宅してからちょっと長く寝ちゃったら、眠れなくなって」

 眠っている私を車から運び、ベッドへ連れていって、食事まで作ってくれる朝陽だ。別れようと思っていたら、こんなふうに尽くしてくれない。

 今を壊したくなくて、ハンナさんのことは言いだせなかった。

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