極上パイロットが愛妻にご所望です
 ざわざわしている搭乗客に、私は顔を引きつらせながら安心させる言葉をかける。そうしながらも私の足は小刻みに震えていて、手が冷たくなっている。

 焦燥感に駆られ、緊迫した三十分がようやく経ち、やってきたスタッフと交代するや否や、展望デッキへ向かって駆けだした。

 展望デッキは騒ぎを聞きつけた人たちがあふれかえるようだった。腕に腕章をつけた報道陣までいる。

 私は両手をギュッと合わせ、みんなが見ているほうへ見上げた。

 はるか上空を飛行している旅客機、あれがそうらしい。大きな機体が青空を悠々と飛んでいるようにしか見えないが、乗客たちは生きた心地がしていないだろう。

 朝陽、あなたの腕に乗客みんなの命がかかっている。

 私には朝陽を信じて、見守り、祈ることしかできない。

 消防車や救急車などの緊急車両も控えているのが、私の目にもはっきり見える。

 そのとき、東京湾上空を飛行していた機体は急旋回して空港の上空高く通り過ぎていった。

「砂羽っ!」

 振り返ると比呂がすぐ後ろに来ていた。

「すごい人だね。無事に降りられるのかしら……」

 いつもは見送りや見学、出発前の時間を楽しむ旅行客などが展望デッキに出ているくらいだが、辺りはギュウギュウなほど野次馬でごった返している。

 
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