極上パイロットが愛妻にご所望です
 その日、自宅に着いて、スマホを手にメッセージを送ろうか迷っていた。もちろん朝陽に。
 こういうことは直接聞いたほうがいいと思う。

 壁にかかった時計へ視線を向けると、二十二時。もうかれこれ半日以上悩んでいた。

 パリは十五時。この時間に朝陽はホテルの部屋にいるのかわからないけど、勇気を奮い立たせて、朝陽の番号を出して受話器のマークをタップした。

 数回呼び出し音が鳴った後、『砂羽?』と、朝陽がした。

「朝陽、今大丈夫……?」

 フライト先に電話をかけたのは初めてだった。朝陽の低くて滑らかな声はすぐに怪訝そうなものになる。

『ああ。大丈夫だよ。どうした?』

「あの……」

 次の言葉が出てこなくて、大きく深呼吸する。

『砂羽? なにかあった?』

「……朝陽が会社を辞めるって噂を聞いたの。単なる噂……だよね?」

『もう耳に入ったのか……』

 朝陽は呆れたようにため息を漏らしながら口にした。

「もうって、ことは、本当なのね?」

 本当だったのだと知って、私はガツンと頭を殴られたようなショックを受けた。

『ああ。だけど、この件に関して砂羽は関係ないから。気にしないでいい』

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