極上パイロットが愛妻にご所望です
「な、なにを……!?」

 慌てふためく私に、桜宮さんは真面目な顔で見つめてくる。

「ねえ? 水樹砂羽さん。俺と会ったことはない? 食堂前とゲート以外でね」

「あ、ありませんっ!」

 即答でふるふると頭を左右に振れば、彼の形のいい唇から「はあ~」と、ため息が漏れる。

 そこで青信号になり、私の顎にかかっていた指が外され、桜宮さんは前を向き軽くアクセルを踏んだ。

 わけがわからない……桜宮さんと会ったことなんてない。会っていれば絶対に忘れない自信はある。

「桜宮さん、誰かと間違えているのではないでしょうか?」

「……間違えてはいないはずだ。じゃあ、質問を変える。朝陽の名前に覚えは?」

 食い下がられるとは考えてもみなかった。

『そうだな。人違いだ』で、この会話は終わると推察していたのだ。

「桜宮さんのお名前を知らない社員はいないと思います」

 彼は我が社の社長の息子であり、最年少機長。モデルのような身長の持ち主で、尚且つスタイルがいい。顔も美形であれば、いつでも注目を浴びる存在だ。入社してからは、月刊の航空情報誌になどにも幾度となく出ているから、会社外でも顔を知られている。


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