極上パイロットが愛妻にご所望です
「バッグ貸して。開けるから」

 パーティーバッグは留め金をクロスさせるもので、右手が不自由だと開けづらい。テーブルの上にパーティーバッグを置くと、桜宮さんは長く男らしい指で留め金をカチッと音をさせて開けた。

「ありがとうございます」

 左手でスマホを取り出し、番号を交換する。

 憧れだった桜宮さんが付き合おうと言ってくれているのに、まだ遠い人にしか感じられない。

 桜宮さんの番号を登録しながら、踏みきれない気持ちは変わらなかった。
 

 電車で帰れるからという私を桜宮さんは再び車に乗せ、自宅マンションまで送ってくれた。

 頭の回転が速く、気のつく彼は途中駅前のドラッグストアに寄り、病院の処方箋で薬をもらうところまで、私がすっかり忘れていたことをやってくれた。

 自宅マンションの前に車が停められた。

 桜宮さんは車から出て、後部座席から荷物を出している。

 助手席からスマートに降りようと思ったのに、SUV車は高くて地面に足を着けた瞬間よろけてしまった。

「あっ!」

 ヨロヨロとふらついたところへ桜宮さんの腕が慌てた様子もなく腰に回り、強引に引き寄せられた。

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