極上パイロットが愛妻にご所望です
「気をつけて。またケガをするところだった」

 桜宮さんの胸に抱かれる形になってしまい、私の胸がドクドク暴れ始める。

「あ、ありがとうございます」

「俺って頼りになるだろ?」

 ドキドキしすぎて胸が痛いくらいで、その音が彼に伝わってしまわないようにパッと離れる。

 茶化した物言いにも、桜宮さんを意識しすぎてしまい気軽に返答できず、無言で彼が持っている引き出物を右手で掴んだ。

「っう……」

 痛みに荷物を手放すが、そもそもまだ彼は手を離していなかったため、地面に落ちるのは免れる。

「はあ~。本当に右手を使わずにいられるのか? 注意しろよ」

 桜宮さんは端整な顔に苦笑いを浮かべ、私の左手に荷物を持たせてくれた。

「……すみません。ありがとうございました」

「ゆっくり休んで。俺のことを忘れずに」

 桜宮さんは颯爽とした足取りで運転席に戻っていく。

 すでに日は落ちていて、薄暗くなっていた。

 運転席のドアが閉まり、車が動きだす。

 私はお辞儀をして彼を見送り、テールランプが見えなくなるまで複雑な気持ちで見送っていた。

 なんだか夢みたいな出来事だったな。

 包帯が巻かれている右手を目の前にかざして見つめる。

 夢じゃないんだよね……。
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