雨のリフレイン
「じゃあ、君は何故泣いているんだ?」

水上の指先がそっと柊子の目尻に触れる。
柊子は、溢れた涙で濡れた瞳で水上を見上げた。
口元にわずかに笑みを浮かべて。


「泣いてません。
これは、雨です」


「あぁ、そうだな。
しばらく、止みそうにないな。
だから。
これだけ近くにいる俺にしか聞こえないから。
教えてくれ、君はどうして雨の中、ここにいる?
ゆがんだその笑顔は、嫌いだ。
その原因が俺なら、俺には理由を聞く権利がある」

水上には、かなわない。
柊子のことを見てないようで、よく見ている。
ただ、わかっているようで、わかっていない。

柊子は、仕方なく、とつとつと語り出した。


「…私と母は、先生の邪魔にしかならないから。
私たちさえいなければ、仕事に集中することも、もっと楽なのに。
仕事に支障をきたす『家族』なんて、いないほうがいい。私、後妻の方みたいに迷惑な存在になりたくない。
先生、今まで本当にありがとうございました。
お母さんなら、私がなんとかするから。
私なら大丈夫だから。
だからもうこの結婚、終わりにしませんか。先生は自由に思うままに、スーパードクターへの道を行って下さい」



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