雨のリフレイン
「行ってくる」
「行ってらっしゃい。気をつけてくださいね」


まるで、何も無かったように、いつもと同じように笑顔で見送る柊子。
だが、その笑顔にわずかに寂しさが滲んでいる。


つい先ほどまで、甘い声を上げて夢中で洸平にしがみついていたのに。
やっと。
やっとひとつになれたのに。


洸平は、これほど病院に向かう足が重く感じたことはなかった。
こんな状態で柊子を置いて行きたくなかったし、自分も仕事に集中できるかわからない。


「…くそ。行きたくないな。朝まで柊子といたかったよ」

もう一度、抱きしめようと手を伸ばしかけて。
だが、抱きしめたらキスしたくなって、離したくなくなることは明白だから。
洸平は伸ばしかけた手を、玄関のドアノブにかけた。

「行ってくる」
もう一度、自分に言い聞かせるように言い残し、洸平の姿は玄関のドアの向こうに消えた。

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