雨のリフレイン
「私から逃げ出した男よ。馬鹿よね、逆玉に乗れるチャンスをみすみす逃すなんて。
水上先生もよ。父の誘いを断るなんて。
みんな、馬鹿なんだから」

言葉こそ彼女らしい強気だったけれど、そこにいつもの張りはなく。
彼女はいつも高飛車で、女王さま気取り。でもそれは、脆く壊れやすいガラスの鎧だったのかもしれない。
鎧の下は、振られた男をいつまでも忘れられない繊細な女の子なのかもしれないと、思った。

思っただけで洸平はどうにも出来ず、彼女をそのままに、内科医局を出た。



ーー山岸、か。



心臓内科に進んだ山岸は、ひどく寡黙な男だった。真面目で、授業には欠かさず出席していて、翔太などはテスト前になる度に彼のノートをコピーさせてもらっていた。女性に対しても潔癖な男だった。
が、そういえば研修医だった頃、一度だけ二人で食事をする機会があった時に、交際中の彼女がいると聞いた。
普段はもの静かな山岸が、その時は珍しく饒舌だった。

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