雨のリフレイン
「痛いよぉー。ママ、怖いよぉー」


泣き声。
うめき声。

漂う血の匂い。






目の前の状況は、悲惨なものだった。
悲しんでいる暇はない。

そっとお腹に手を当てる。ポコンと蹴られた。
それはまるで柊子を鼓舞するようで。一緒に頑張ると言っているようで。柊子に勇気が湧いてくる。

迷いはなかった。

何の役にも立たないかもしれない。それでもただじっとここで救助を待っているだけじゃ、ダメな気がした。

なぜなら、柊子は、看護師だから。
経験も知識も圧倒的に足りないけれど、四年間勉強して国家資格を持つ看護師だから。
出来ることをしなければ。
そっと胸のポケットから、先程山田師長から渡された身分証を取り出す。

『光英大学病院 看護師 八坂柊子』

印刷された文字が最後に柊子の背中を押す。



目の前の惨劇に、自然と体が動いていた。





「私は、看護師です。
今からお一人ずつ状況をうかがいます。
大丈夫、すぐに助けが来ますから」


柊子の、力強くハッキリとした声がバスの中に響いた。
カバンの中を探る。だが、書ける物がない。

すると、母子手帳が目に入った。
母子手帳以外に書けるものは無かった。手帳には小さなボールペンも付いている。
柊子は手に取った母子手帳の表紙を見つめ、小さくうなづいて立ち上がった。



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