雨のリフレイン
一つは、信子と柊子だ。生活基盤がこの地にある二人を、無理に一緒に連れて行くわけにはいかない。そうなれば今でさえ、すれ違いばかりの生活が一層距離が離れてしまう。ただそれは、翔太が協力してくれて、休みを取らせてくれればそれほどの問題じゃない。

なかなか、態度を決められない水上の最大の懸念は、横浜に彼の実家があることだった。
実家とは距離を置いてきた。だが、彼が横浜で仕事をするようになれば、もしかしたら『水上家の魔女』が何かしらの動きを見せるかもしれない。彼女から、信子と柊子を守らなければ。

全ての事情を知る翔太は、“一条”の力で守ってくれると言ってくれている。
だが、毎回“一条”に頼ってばかりでは申し訳ない。しかも信子と柊子は水上が守るべき『家族』だ。出来れば自力で守りたい。


悩む水上を翔太は暗に急かしているのだ。
早く決めろ、と。自分の力で、などと足掻くことをやめて、一条を頼れと。


「もう少し、時間をくれ、翔太。
自分のことは、自分で出来る限り片付けたい。
…お前とおんなじさ。“一条”の力を借りて逃げてしまっては、成長できないだろ」
「…わかった。それを言われると、弱いねぇ。
ま、お前を信じるよ」


二人は缶ビールで乾杯をする。

たとえどんなことがあっても、二人は親友であり、ライバルであり、一生付き合っていきたい最高の仲間だった。




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