華麗なる人生に暗雲はつきもの










「……は、初めて。初めてなんだよ?」



 そして、俺へ抱きつき、涙と服に押し付けられてくぐもった声で、付き合ってから初めてなんだよ、と。


 水野の髪を撫でると前と変わらぬシトラスの香り。


 長い髪でも短い髪でも何も変わらない。


 俺を苦しいほど溺れさせる香り。



「不安にさせたか?」



 水野の嗚咽に胸が痛くなる。


 求めてばかりで何もしてこなかったことを痛いほど思い知る。



「ううん。榊田君は優くて、いつも大事にしてくれたから不安に思ったことなんてない。………でもね、ずっと言って欲しかった」



 俺にぎゅっとしがみ付きながら、榊田君が大好き、一番大好きと言う水野。


 一番という、その言葉を言葉通り受け取ることはできない。


 俺にとって水野ほど大事な存在はいない。


 水野には仁がいる。


 きっと水野の仁への想いは変わらない。


 それに嫉妬して胸を痛めることがこれからだってあるはずだ。


 水野は変わると言っていたが、本当に全て変わったら、俺の好きな水野ではない。


 だから、痛みを受け止めて生きて行こう。


 不安なことだって傷つくこともある。


 それでも、俺には水野が必要だ。


 水野の一番好きという言葉を信じることがいつかできたらいい。




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