華麗なる人生に暗雲はつきもの





「榊田君、指輪ある?買ってくれてたよね」



 水野は恥かしそうに、でも目を輝かせて俺を見る。


 その目から、後ろめたくそっと目を背けた。


 「あるけど、宮野に選んでもらったものだ。お前、店に入るところ広也と見たんだろ?」


 実はあれから俺は、自分で指輪を見に何度か足を運こんだ。


 振られているのに、女々しくもガラスケース越しに指輪を見ていた。



「婚約者への贈り物ですか?と笑顔で問われた時の胸を貫いた衝撃は絶大で、もはや即死」



 そんな即死を何度も経験し、ゾンビの如く這い上がっては自分で水野に似合う指輪を探し求めた。


 だが、あの指輪以上に良いと思えるものはなかった。


 それほど、あの指輪は水野にぴったりだと思う。


 理由はあれど別の女が選んだ指輪だ、気分は良くないし、俺が手抜きをしたようにしか見えないだろう。



「京香さんが選んでくれたんだよね!絶対素敵!!」



「……相変わらず、思考がズレてるよな、普通、他のやつが選んだ指輪なんて嫌だろ?」



「えっ?嫌じゃないけど」



 きょとんと不思議そうに首を傾げる姿は天然娘というよりオトボケ娘。



「俺が一生懸命選んで喜ぶものだろ?」



「うん、だから嬉しいよ。榊田君は指輪を選んでもらう相手を一生懸命考えてくれたでしょ?いっぱい京香さんにコキ使われてまで」



「………………」



 まぁ、良いか。


 一番似合っていて水野も良いと言ってくれているのだから。



< 178 / 216 >

この作品をシェア

pagetop