華麗なる人生に暗雲はつきもの
水野家の中で一番怒らせてはいけないのはおじさんなのだと痛感する。
そんなわけで、俺は困り果てていた。
子供が出来た今、すぐにでも籍を入れたい。
しかし、今の状態では無理。
さらに怒りを買ったのは結婚式会場を押さえていたこと。
姉貴のコネを使って押さえたその会場は何でも人気な式場だと、水野は姉貴に礼を言っていた。
水野がパンフレットを見てはしゃいでいる姿を見た時に俺は姉貴が俺の姉貴で良かったと唯一の瞬間と言っても良いだろう。
早くに式を挙げて公認の夫婦になりたかった俺からしてもありがたい話ではあった。
しかし、こんな事態になって挨拶も済ませていないのに式場を押さえていたことが、さらなる逆鱗に触れた。
まさに火に油状態。
因みに、同様の態度を取ると思っていた仁は意外な反応を示した。
仁の家に水野の妊娠を報告しに行った時のことだ。
佳苗は大喜びし、仁は呆然自失。
「そっか。子供か……」
空にすぐに溶けてしまいそうな、そんなぼんやりとした声。
その後に水野に笑顔を向けて微笑んだけれども、その顔はどこか寂しそうに見えた。
そんな表情を見てしまうとと俺はいつもみたいな嫌味な言葉が思い浮ばず。
水野と佳苗が手を取り喜び合っているのを仁と同じくただ眺めていた。