華麗なる人生に暗雲はつきもの
「今日はもうお終い?」
今日も水野は終わりにするかと思ったところで、後ろからぎゅっと腰に抱きついてくる。
水野がいる休日を仕事だけで終わらすような馬鹿なマネはしない。
マイナスイオンを補給が休日の一番の仕事だ。
こうして甘えられるのはいつも俺が仕事が終わってから、仕事中に邪魔をされたことが一度もない。
仕事が終わるまで、静かに水野は自分の時間を過ごしているのだ。
「榊田のところもそうだろうけど、残業だったり、休日に仕事してると、デートしろだの文句ばっかり言うんだ。かなり面倒だよな」
同期と飲んだ時のこと、付き合っている女から来た連絡を見てうんざりとため息を吐いて、そんなことを言った。
「……いや、俺はそんなこと一度もない」
「はぁーさすがは榊田。賢い女選んだな。マジ羨ましい!」
羨ましく感じたのは俺の方だった。
贅沢なのかもしれないが、何もわがままを言われないのが頼りにされていないような、俺がいなくてもいいようなそんな気分にさせられるから。
水野のわがままならどんなことでも聞くし、だからこそ言って欲しい。
望むものを与えてやりたい。
それこそ、水野は仁には遠慮なく甘えるからなお一層モヤモヤして、キツくあたってしまうこともしばしば。
「ごめんなさい。まだ、お仕事途中だった?」
じっと水野を眺めたまま答えない俺から腕を離し申し訳そうに謝ってきた。