華麗なる人生に暗雲はつきもの
「悪いけど、そういうの好きじゃない」
「あ、あの。ごめんなさい。私、どうかしてました。でも、榊田さんのことが諦められ…」
羞恥心から泣きそうな顔でペコペコしながら、話を続ける女を遮った。
もう、この空間にいたくない。
水野をずっと抱きしめていないのに、別の女の香りが付いたようで嫌だった。
「ただの同期としてしか、見ることはできないから」
それだけ言うと、女を通り過ぎ立ち去った。
「さすがは、榊田。あの総務課の紗那ちゃんを袖に振るとは」
「でも、危なかったわよ。手を出すかと思ったのに、理性が働いたようね。つまらない男」
角を曲がった先の大きな鉢植から野次馬二人が顔を出した。
「……今、二人がとてもお似合いだと確信しましたよ」
「まぁ、職場の女にお遊びで手を出すのは厄介だからな。でも、総務課の姫が相手だぞ?もったいない」
「あら?あの程度なら榊田は外で見つけて、手を出してるわよ。職場でお遊びに手を染めるのはモテない男だけ」
「……当事者の俺は無視ですか。もう勝手にやっててください」
二人を通り過ぎて二歩ほど歩いた段階で、高杉さんが肩を組んでくる。
「榊田~。ほんの冗談だ。許せ。な?」
「人の告白現場を覗き見なんて悪趣味ですよ」
そして、今度は宮野が左から肩を組んでくる。
二人に挟まれ、眉間のしわが一層刻み込まれたことを感じた。