華麗なる人生に暗雲はつきもの
「俊君。一緒に飲みに行かないか?」
俺は名前を呼ばれたことに一瞬、というか二瞬ぐらい呆気に取られた。
いつも、君と呼ばれていたから。
とにかく、俺は頷いた。
今日はおばさんと水野はどちらも友達と夕食だったから仕方なく誘ったと思うところだが。
それにしては、どこか様子が違って。
男同士にしかわからない、微妙な空気を俺は感じ取ったのだ。
とにかく、こうしておじさんに連れられて、今いるのはとある店の隅っこ。
がやがやとした雰囲気の中、妙に厳しい顔のおじさんと、妙に畏まり気味な俺とで少し浮いている。
恐縮しつつ、おじさんにお酒を注ぐ。
俺はお酒が強いが、おじさんの前では万に一つでも失態を見せるわけにはいかないと、控えめに飲んでいた。
そんな中、おじさんは脈略なく、わけのわからんことをぽつりと言った。
「私は順序というものは大事だと思うんだ」
何のことだがさっぱりだが、おじさんの顔から何か俺に伝えたいのだとわかったから、箸を置きしっかりと聞く体勢を取る。
「昨今、順序が違うカップルなんて不思議じゃない。できちゃった婚なんか当たり前で」
俺は目を見開きつつ、相槌を打つ。