華麗なる人生に暗雲はつきもの





「小春。そうやって笑っててくれ。そのためなら、俺は何だってするから」



 俺のことなんて好きではなかった。


 水野が好きなのは仁だけ。


 俺どころか水野さえ気付くことなく、間男だったのだ俺は。



「ありがとう。でも、私、そんなに子供じゃないよ?昔の私とは違う」



「わかってる。それでも、頼って欲しいんだ、一番に頼って欲しい」



 不可侵。


 この二人に入り込む隙なんてない。


 二人だけの世界がある。


 俺と水野が出会う前からずっと。


 未だに。


 ほら、水野は嬉しそうに。


 でも、泣きそうに頷いた。












 仁が立ち去って行くのを最後まで見送る水野を見つめていた。


 現実ではないどこかを彷徨っている感覚。


 だが、水野が家へと入ろうとする瞬間、足が動いた。


 この感情の正体がわからないが、感情に支配されて、そのまま行動を起こした。


 ドアを閉めようとした水野は、いきなり現れた手にドアから手を離す。


 そのまま、水野の肩を掴み、玄関の壁に押し付ける。


 頭を打ち付ける音と、手土産が入ったコンビニ袋が落ちる音が同時に聞こえて、まだ冷静な部分があるのだと、一瞬どうでもいいことを考えた。


 転がったゼリーがドアに挟まり、微かな光が差し込んだ。


 水野の顔が暗闇の中で映し出される。


 驚きの顔はすぐにバツの悪そうな顔へと姿を変える。


 まるで浮気現場でも目撃されたかのように。


 いや、実際その通りか。



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