華麗なる人生に暗雲はつきもの




「ずいぶん、楽しそうだな」



「……榊田君……」



「振った男のことなんか、もう忘れたか?忘れて、楽しんでたのか?あんな風に平気で笑って過ごせるんだな」



 俺のことなんて考えもしなかった。


 あの日から俺はずっと苦しんでいたのに、どうして水野は笑ってる?


 あれで全てを終わりにしたつもりか。


 これまでの俺と過ごした日々は、水野にとってその程度のものだったのだろうか。



「……嫌味はやめて」



「嫌味じゃない。本当に楽しそうだから、そう言っただけだ。好きな男と一緒にいれて、幸せ、って顔してた」



「それが、嫌味でしょ?榊田君が怒る気持ちはわかる。お願いだから、離して痛い」



 水野が眉をしかめる姿を見て、皮肉な笑いが込み上げる。


 何がわかると言っているのか?


 俺の何がわかる?



「なぁ?そんなに仁が好きか?お前は夢見すぎなんだよ」



 知らず知らずのうちに水野の肩を抑え込む手は強くなる。


 水野の顔はさらに険しくなる。



「一度抱かれて俺と比べてみれば良い。お前が頼めば、仁は抱いてくれるだろ。何もないから夢見てるだけなんだよ。純情ぶって言えないって言うなら、俺から頼んで……」



 途中で言葉が遮られた。


 ひっぱ叩たかれた音が耳の中で鈍く響く。


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