華麗なる人生に暗雲はつきもの
「ゆ、許さない。私のことは何を言っても構わない。で、でも、仁くんのことを侮辱することは絶対に許さない!!」
抑え込まれて痛がっていたのに、どこにそんな力があるのか、先ほどまでの怯えたような震えは怒りへと変わっていた。
おそらく唇が切れたのだろう、血の味を感じながらも、すらすらと皮肉な言葉が口を吐く。
「悪くなんて言ってないだろ。ま、一度寝れば、仁もただの男だってがっかりするさ、お前だって」
水野は肩に置かれている手を外そうとするが俺の力が強まるだけに過ぎない。
水野を動かすのは仁だけ。
仁のために怒り、仁を思い泣く。
「……初めて」
水野が涙を浮かべながらもまっすぐ俺を見つめ、俺の腕へ爪をゆっくりと立てた。
爪を立てられた先から血がうっすらと滲み上がり次第に熱がこもる。
「初めて、榊田君にがっかりした。私は……」
「がっかりすれば良い。仁とも好きにすれば良い。でも、俺の相手もしろよな」
そのまま力でねじ伏せ、床へと押し倒す。
大きな音と水野の小さな悲鳴が耳に届いても、どこか遠くのようで現実的ではない。
組み伏せた水野の顔に恐怖が映っているのも、ブラウスのボタンがはじけ飛ぶのも悪夢のようだ。
いつも恥ずかしながらも身を委ねてくれていたのに、俺に応えようと首へと腕を回してきて耳元で、大好きと囁いてくれたのに。
そんな、水野はどこにもいない。