華麗なる人生に暗雲はつきもの
「土下座でも何でもする。何でも言う通りにする。だから、頼む。水野はお前の言うことなら必ず聞く。頼むから……」
ソファーから立ち上がり、膝を曲げようとした瞬間、思わず目を閉じる。
グラスの酒を浴びせかけられたと認識した時には、仁は立ち上がり、瓶の酒を俺の頭上へと注いでいく。
「仁っ!!」
佳苗が仁の腕を掴み止めようとするが、仁は無表情のまま俺へと酒をかけ続ける。
俺はそれをただ他人事のように眺めていた。
ざっくり切れた瞼から、再び血も一緒に滴り落ちていく。
酒がなくなり、ポタポタと水滴が髪から垂れ服はぐっしょりと濡れていた。
「じ、じ、仁!!な、何やってるの!?もう離婚するっ!馬鹿!俊君着替え持ってくるから!」
バタバタと駆けて行く足音を聞きながら、冷ややかな仁をまっすぐに見た。
「何だ、その目は?お前、何でも言うこと聞くって言っただろ?お前みたいなクソガキと今まで小春が付き合ってたかと思うと、本当に殺してやりたいと思うな。そうだ、お前、頼むから死んでくれ」
容赦ない言葉に、自分のプライドを捨てた行動を踏みにじった仁に言葉では言い尽くせぬ憎しみが沸き起こり、奥歯が砕けるほど強い力で歯を食いしばった。
佳苗が酒と一緒に持ってきたりんごを剥いた果物ナイフを握りしめる。