華麗なる人生に暗雲はつきもの




「おお。それで死ぬ気か。ここで死なれても困る。外でやれよな」



 仁は動じることなく、ソファーに座ったままあくびをした。


 ナイフを強く握りしめる手に力が籠る。


 足を踏み出そうとしたその時。



「俊君!!ダメっ!やめてっ!」



 佳苗が俺へと駆け寄り、ナイフを持った俺の腕にしがみ付く、それに慌てたのは仁だった。



「佳苗!!危ない!!離せっ!!」



「俊君、仁が許せないのはわかる。でも、お願いだからやめて。お願いそれだけはやめて。仁を私から奪わないで!」



 泣きじゃくる佳苗を仁が抱き寄せ、ナイフは取り上げられる。



「仁の馬鹿、仁の大馬鹿者っ!!離婚するんだから!!本当に離婚するんだからっ!」



「悪かった、佳苗。本当に悪かった。反省してる。本当に反省してるから!」



 ずるずる鼻水を流し、泣く佳苗を仁は必死に宥めている。


 その姿に憎しみより悲しみが押し寄せる。


 泣いて全てを忘れてしまいたい。



「こいつがあまりに馬鹿なことを言うから、つい」



「つい、じゃないでしょ!?俊君が怒るのは当然よ!馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!」



「馬鹿はこいつだろ!?小春を侮辱したも同然だ」




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