一級建築士の甘い囁き~ツインソウルはお前だけ~妊娠・出産編
「そういえば結子の曾祖父さんが双子だと言ってたな」

安輝からの初耳情報に、萌音はガバッと顔をあげた。

双子が生まれる確率は100分の1。

一卵性の確率は1000組に4組。

二卵性の方が圧倒的に多いのだが、身内に双子がいる場合は、双子が生まれる確率はそうでない人達よりも高いらしい。

遺伝子がホルモンの分泌に関係するとか諸説あるが、ヤンヤヤンヤと盛り上がる佐和山家と長嶺、道端夫妻にはそんな些細なことはどうでもよいことのようだった。

「洋服、お揃いにしなくちゃね」

「双子の育児用品はどこに売ってるんだろう?」

騒ぎ立てる家族の中で、萌音だけが浮かない顔をしている。

「妊娠中期でまだ、何も安心できないんだ。焦って色々準備して、萌音を 追い詰めるようなことがないように今は見守っていて欲しい」

海音は、兼松医師と多胎の育児用の雑誌から得た知識を家族に披露した。

2人分の体重増加に加え、さまざまな負担が妊婦にのし掛かる。

切迫早産や妊娠中毒症、緊急帝王切開になる確率も単胎妊娠に比べ格段に上がるのだ。

「そうだな。萌音ちゃんがストレスを感じないように私達もフォローしよう。萌音ちゃん、君は一人じゃない。海音だけでなく、私達にも遠慮なく頼ってほしい」

風太郎の言葉に萌音は小さく頷いて涙を浮かべた。

「そうだぞ。萌音に出来なかった分、私も孫の面倒をみるからね」

仕事ばかりで家にいなかった父。

それでも尊敬すべき偉大な師匠である父。

「ありがとう。お父さん」

ひとりぼっちでご飯を食べていた萌音はもういない。

この暖かい人たちに囲まれて、限られた双子の妊娠生活を楽しもうと萌音は心に誓った。
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