先輩の彼女
「斎藤?……」

「あの……先輩……」

何を言うつもりだったか、分からない。

「私……」

一歩、間野さんに近づいた時だった。


「久実さん。」

斜め後ろに振り向くと、木立の側に谷岡君が立っていた。

「谷岡君。」

「やっと出てきた。遅くなるなら連絡くれればいいのに。LINE教えたでしょ?」

谷岡君は、ゆっくり私の元へ、近づいて来た。

「お疲れ様です。間野さん。」

「ああ、お疲れ様。君、編集部でバイトしてるんだって?大学生なのに、大変だね。」

すると谷岡君は、間野さんと真っ直ぐ向き合った。

「そんな大変でもないですよ。好きな仕事してるんで。」

「へえ。じゃあ、就職は出版業界を希望?」

「そのつもりです。」

谷岡君、まだ二十歳ぐらいなのに。

間野さんと堂々と渡り合うなんて。

「頑張って。じゃあ、俺は先に失礼するよ。」

間野さんは、そう言うと言ってしまった。
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