闇色のシンデレラ
あのときの志勇は、珍しくオヤジに反抗した。


17年も付き人として共に歩んできた男が突然いなくなるのだ。


オヤジが信頼する側近を亡くしたとはいえ、納得できないのは俺も同じだった。



しかし、思い起こせばそれでも、今日ほど激しい拒否ではなかったかもしれない。


最終的には俺がオヤジに付くことを許したのだから。



となればあの娘は、相川壱華は、志勇にそのとき以上の感情をもたらしたということなのか。


執着以上の感情を、志勇はあの娘に覚えたのか。


あの娘は策略の一環の駒、もしくは取引材料だというのに。


俺にとって、また組にとっても、彼女にそれ以外の価値はないと思っているはずだ。




「まだ怒ってるの?」

「……」

「冬磨?」

「……あいつは、危機感がなさすぎる」



その程度にしか見ていなかったのだから、オヤジも志勇の反応は予想外だったに違いない。



「万一、北があの娘の正体を暴露してみろ。
あれは日本中から狙われることになる。
早急に手を打たなければならない。せっかく西を崩すために手にした王手だ。
だのにあいつは……」

「当たり前よ。志勇はあの子を使ったりなんかしない」



しかし、むしろ姐さんはそれが当然という風にオヤジの言葉に被せるように声を放った。


オヤジは一瞬(いぶか)しげな顔をしたが、言葉をつないだ。



「全ては組のためだ。あの娘さえいれば西を無に帰し、北を潰すことができる。
その計画を前に、志勇の利己心などいらない」


「じゃあ、冬磨も組のためならば、わたしを捨てるのね」

「っ、絋香!?……」



ところが、唐突な姐さんの自虐的な言葉に顔を跳ね上げた。


すると姐さんはそっと、人差し指でオヤジの口元を押さえた。
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