闇色のシンデレラ
「もう、志勇もお茶飲まないで帰っちゃうし………仕方ないわね、片付けないと」

「姐さん、大丈夫です。私が片しますのでお座りください 」



ぼんやりとした室温の生ぬるさに過去を考えあぐねながら、部屋の隅に立てかけてあったぼんを取った。



「あら、ありがとう司水」



俺の心中に反し、かろやかに笑う姐さんに笑みを送り、追憶に浸る。






あの日まで、オヤジの側近であった兄が亡くなるまで、俺は志勇の側近頭───時期若頭補佐になるつもりでいた。


やがて成長し若頭に襲名するそのとき、俺は荒瀬組幹部として昇格できる。


そんな野心もあり、歳が10も離れた彼の隣に常に在り続けた。


幸い、志勇は強く賢く決断力にも長け、これなら未来は有望であると、そのために俺は本心から忠誠を誓った。



ところが、5年前のことだ。


運命は皮肉だとよくいったもので、俺はさらなる飛躍を約束された代わり、志勇の行く末を見届けることができない身となった。



俺は、死んだ兄の代わりを務めさせられることになった。
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