闇色のシンデレラ
憂雅くんについていった先で、どこからともなくお腹がすくようないい匂いが漂っていた。


これはみりんとお醤油の匂いだな。もしかしてここって。



「力〜!」



厨房?



「……あ?」



憂雅くんといっしょに覗いてみたら、大きな背中が見えた。


彼は呼ばれた瞬間、素早い動きで振り返り───



「てめ、憂雅!捜したぞ!毎度つまみ食いしやがって、今日という今日は許さね……え?」



烈火のごとく野太い声をあげたかと思うと、片手にお玉を持ったまま、一転してフリーズ。




「うおぉ!?あんた、なんで!いつからそこに!」



そしてわたしを見るなり猛スピードで後ずさりをしてお玉を投げた。


お玉は宙を舞い、置いてあった空のやかんに当たってガッシャーンと大きな音を響かせた。


……力さん、こんなにいいリアクションをする人だったとは。




「あ、力がやかんおとした。おこられるよ!」

「うっせ、お前はそこで大人しくしてろ!司水さんにつまみ食いのこと言いつけてやる!」





子どもに文句を言う力さんを見ていると、コロコロと足元に転がってきたやかん。


おっと、拾わなきゃと思ってしゃがんだけど、目の前に大きな手のひらが伸びてきてやかんを拾い上げた。



「拾わなくていいです。俺が落としたんで」

「あ、あの、ごめんなさい。驚かせちゃって」

「いいえ、俺が勝手に騒いだだけです」



立ち上がって謝ったけど、彼がわたしに向ける目は至極(しごく)冷たい。


わたしを警戒しているんだって思うと体が固くなる。


だけどわたしも志勇の隣に立つため、視線ひとつで負けてはいられないの。


思い切って自分から発言した。
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