独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
的はずれなことを言う樹先生をおもしろく思いながら、首を左右に振った。けれど話は終わらない。
「ホテルに連れ込まれたら、どうするつもりだったんだ?」
ホ、ホテル!?
たしかに『どこかで少し休もうか?』って言われたけれど、それは公園とかで夜風にあたって酔いを冷まそうって意味でしょ?
いきなりホテルなんて、いくらなんでも考えが飛躍しすぎだ。
「加藤君はそんなことするような人じゃありません」
失礼なことを言う樹先生をジロリと睨んだ。
「アイツのこと、好きなのか?」
「そんなんじゃないです!」
職場で唯一の同期である加藤君には、変な気を遣わないで済むから一緒にいて楽しい。
でも彼に対する思いは、恋愛感情ではないと断言できる。だって私が好きなのは、樹先生なのだから。
あふれてやまない思いを胸に抱えながら、隣に視線を向けた。けれど樹先生は体の前で腕を組み、眉間にシワを寄せたまま。
不機嫌なのは私を家まで送ることを、面倒くさいと思っているからだ。
嫌われたくないのに……。
すぐ手を伸ばせば触れられる距離にいる彼がとても遠い存在に思えて、物悲しい気分に襲われた。