独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
「彼女は俺が預かる」
「あ、はい」
腰に回っていた腕に力がこもり、樹先生にうながされて足を進める。
「加藤君。ご、ごちそう……さま」
振り向きざまに、たどたどしくお礼を伝えたけれど、加藤君はその場に呆然と立ち尽くすだけだった。
体を支えてもらいながら駅前通りを歩き、タクシー乗り場に向かった。
「白金まで」
「はい」
後部座席に乗り込み、彼が私の家の住所を告げた。
樹先生の隣は安心できて、シートに深くもたれかかると大きく息をついた。
「大丈夫か?」
タクシーが静かに発進すると、すぐに顔を覗き込まれる。
その心配そうな表情を見たら、申し訳ない気持ちが込み上げてきた。
「迷惑かけてごめんなさい」
「いや。気分が悪くなったら車を止めてもらうから、すぐに言うこと。いいね?」
「……はい」
今のところ気分は悪くない。でも長い時間、車に揺られたら、どうなるかわからない。
樹先生の前で粗相してしまったら、きっと立ち直れない……。
今になって、調子にのってお酒を五杯も飲んでしまったことを後悔した。
「アイツと付き合っているのか?」
突然、わけのわからないことを言い出され、まばたきを繰り返す。
「アイツ?」
「一緒にいた男のことだ」
「まさか。加藤君はただの同期です」