独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
それにしても、樹先生はどうして結婚しないのだろう。
彼と同期である兄は、五年前に優花さんとお見合い結婚して、同じ敷地内の別邸で三歳の日菜ちゃんと三人で暮らしている。
この前は千葉にある有名テーマパークに行ったらしく、日菜ちゃんがクッキーのお土産を持って部屋まで訪ねて来てくれた。
澄んだ瞳をキラキラさせて、楽しかった思い出を語る様子は食べてしまいたいほどかわいかった。
日菜ちゃんくらいの子供がいても、ちっともおかしくないのにな……。
社会的地位が高い医者という職業に就き、なおかつイケメンの彼のことを、周りの女性が放っておくわけない。
もしかして女性に興味がない、とか?
独身でいる理由をアレコレ考えていると、母親がイスから立ち上がった。
「桐島先生に、部屋まで運んでくださったお礼を言ってね」
「えっ? 樹先生が?」
「そうよ。お姫様抱っこでね」
母親がフフフと笑った。
自分の身に起きたレアな経験を聞いて胸がときめいたものの、肝心の記憶がないのでは話にならない。
もったいないことしたな……。
ガクリと肩を落としながら、ミニトマトをパクリと頬張った。