独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
出社して白衣を羽織り更衣室を出ると、通路で加藤君と出くわした。
「昨日はごめんね」
親切にしてくれたのに、ゴタゴタに巻き込んでしまった。
「まさか桐島先生とバッタリ会うなんてな。驚いたよ」
「私も」
うなずく私に、加藤君が一歩近づいてくる。
「桐島先生と付き合っているのか?」
母親も加藤君も、どうして同じことを聞くのだろう。フラれた過去の傷を、えぐらないでほしいのに……。
「ううん」
「そっか。それなら俺にもチャンスはあるってことだな」
「……えっ?」
加藤君がニコリと微笑んだ。
チャンスって、どういう意味だろう……。
頭をひねってみても、よくわからない。
「また飲みに行こうぜ」
「うん」
加藤君の後を追って足を進める。けれど、結局『チャンス』の意味はわからないままだった。