独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
樹先生がくるみ薬局に姿を見せた日から、一週間が経った金曜日。
たまたま帰りが一緒になった同期の加藤君に「飲みに行かないか?」と声をかけられた。
今年の新入社員はマッシュヘア―がよく似合う加藤君と私のふたりだけ。新人ならではの悩みや愚痴など、職場では口にできない話が山ほどある。
この後の予定は真っ直ぐ家に帰るのみ。断る理由はなくて、すぐに「うん」と返事をした。
「白石と話をしたら、スッキリした。ありがとな」
「ううん。私も楽しかった。ありがとう」
ダイニングバーを出た先で、ふたりでケラケラと笑い合う。
「明日からまたがんばろうな」
「うん」
料理を取り分けてくれたり、お酒のお代わりをオーダーしてくれたり、気配り上手な彼と過ごすひとときはとても楽しかった。
ああ、酔った……。
星がひとつも見えない暗い空を見上げて、大きく息を吐き出した。
駅に向かって真っ直ぐ歩きたいのに、思うように力が入らない。
「大丈夫か? どこかで少し休むか?」
足もとがふらつく私の肩に、加藤くんの手が触れた。
お酒を飲みすぎてしまった私をあきれもせずに、介抱してくれるなんて、いい人だな……。
加藤君に不安定な体を支えてもらいながら歩いていると、思いがけない人物とバッタリ出くわした。
「華ちゃん?」
まさか、こんなところで会うなんて……。
スーツ姿の樹先生を、信じられない思いで見つめた。