独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
「ただいま八号車に急病人がおられます。お客様の中でお医者さまがいらっしゃいましたらご協力をお願いいたします」
ドクターコールを聞きた瞬間、今まで朗らかな笑みを浮かべていた樹先生の表情が一変した。
「ちょっと様子を見てくる」
「あ、はい」
真剣な面持ちでシートからスッと立ち上がり、グランクラスの車両から出て行った。
樹先生はたしかにお医者さまだけど、ここは病院じゃないし、彼が医者だということは私以外、誰も知らない。
黙ったままこの場でゆったりとくつろいでいても、文句は言われない。それでも、なんの迷いも見せずに席を立った。
困ってる人を放っておけない樹先生を、尊敬せずにはいられなかった。
私も行こう……。
急病人に接したことのない私が現場にいても、なんの役に立たないかもしれない。けれど席に座って、樹先生の帰りをじっと待っていられない。
自分にできることがあるのなら、力になりたい……。
その一心で、急いで後を追った。
新幹線が小さく左右に揺れるなか、通路を進み八号車に続くドアを開ける。そこには車掌らしき男性と乗務員、そして樹先生の姿があった。