独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする

「樹先生」

「あ、華」

樹先生が私の声に気づいて振り向く。その前には、白髪の男性が床に横になって胸に手をあてている姿が見えた。

顔色は悪く、呼吸が乱れて息をするのもつらそうだ。

薬局に訪れるのは、病院で処方された薬を購入する患者さんだけ。目の前で人が苦しそうにしている姿を見るのは初めてで、心拍が上がるのを実感した。けれど、足手まといにはなりたくない。

大きく深呼吸をして背筋を伸ばした。

「この男性がこれを持っていた」

樹先生が差し出してきた銀色のフイルムに包まれた錠剤を受け取る。これは狭心症(きょうしんしょう)の発作を鎮める薬だ。

「ニトロペンですか」

「ああ。おそらく痛みが強くて自分では服用できなかったんだろう。俺が体を起こすから華はそのニトロペンを投与して」

「はい」

誤飲を防ぐため、横になった状態での服用は避けなければならない。

「お薬ですよ」

フイルムに切れ目を入れて錠剤を取り出して声をかけると、樹先生に上半身を支えられた男性が口を開いた。舌下錠(ぜっかじょう)であるニトロペンを口に入れる。

「五分経っても発作が治まらないようなら、もう一度投与だな」

「はい」

指示を出した樹先生が腕時計で時間を確認した。

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