独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
銀色のフイルムに包まれたニトロペンはあと一錠残っている。速攻性はあるものの、服用しても症状が治まらないときは救急搬送が必要だ。
脈を測る樹先生の横で、どうか薬が効きますようにと心の中で願った。
普段はおしゃべりをしているだけで、あっという間に時間が過ぎていくのに、今は一秒がとても長く感じる。
大丈夫かな……。
ハラハラしながら様子を観察していると、白髪の男性の呼吸が徐々に落ち着いてきた。
「も、もう大丈夫です。ありがとうございました」
男性が樹先生に頭を下げる。
「いえ。私はなにもしてません。お礼なら彼女に」
「えっ?」
樹先生が形のいい唇の端を上げて微笑み、私に視線を向けた。
私は指示に従って薬を投与しただけ。現状を冷静に把握して、的確な指示を出した自分のことは差し置いて、私を立てようとするなんて……。
思ってもみないことを言い出した彼を驚いて見つめていると、白髪の男性に両手をギュッと握られてしまった。
力が強くて身動きが取れない。
「ありがとう。あなたは命の恩人だ」
「そ、そんな、大袈裟です」
樹先生が困った私を見て、満足そうに微笑んだ。
こんなに感謝されたのは初めてで気恥ずかしさを感じるとともに、病気で苦しんでいる人の力になれてよかったと心から思った。