独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
お菓子作りには自信があっても運動は苦手。黄色いボールがラケットにあたらなかった苦い思い出が頭によみがえった。
「そうか。それなら今度、特訓しようか」
「……えっ」
スポーツはあまり興味がないし、テニスを始めるつもりなど一ミリもない。鏡を見なくても、自分がしかめ面になっていることがわかる。
「そんなに嫌な顔しなくてもいいのに」
「……」
樹先生がクスクスと笑った。
お医者さまになるほど頭がいいのにスポーツもできる樹先生は、学生時代もモテたはずだ。
そうと思うと、モヤモヤした気持ちが胸いっぱいに広がってしまった。
「か、彼女……いたんですか?」
「気になる?」
「……はい」
元カノのことが気になるのはあたり前でしょ?
コクリとうなずくと、樹先生が顔を近づけてきた。
「いなかったとは言わないよ。華には嘘をつきたくないからね。詳しく聞きたい?」
元カノがどんな人なのか興味はある。でも過去の話を聞いたら、私が知らない樹先生を知っている元カノに嫉妬してしまうに決まってる。
「いいえ」
彼女がいたことをあやふやにされなかっただけで、もう充分だ……。
「今は華のことが一番大事だから」
「はい。ありがとうございます」
大きな手が頭の上にのり、ポンポンと優しく跳ねた。
変えられない過去にこだわっても仕方ない。樹先生が言うように今を大事にしよう……。
頭に感じた温もりを心地よく思いながらタクシーに揺られた。